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2007年2月 3日 (土)

葬式とオヤジと愛鳥と。

ひどく憂鬱なことばかり続いて、ここのところ余裕を失くしていた。

葬式があった。身内の人間が亡くなったのだけれど、もう長いこと顔をあわせていない、遠すぎるわけでもないがこれといって近しい間柄でもない、親戚の男性だ。もう随分な高齢であったことと、長く病床についていたことを耳にしていたから、ある程度の心の準備はできていたし、それこそ久しく会っていないのだから、「もう会えないのだな」という切なさはあるものの喪失感はさほどのものでもなかった。どちらかと言えば、亡くなった彼の近い親族にあたる方々が涙を流す姿に胸が痛んだ。残された伴侶である高齢のお婆さんが、小さな肩を丸め震えながら号泣している姿が特に痛々しく、たまらないものがあった。

一方で葬式は久々に遠くの親戚も近くの親戚も、あるいは近所や会社など様々な縁ある人々が集まる機会でもあって、賑やかだ。田舎の小さな一軒家にはとても入りきれないほど座敷にオトナが集まって、料理をつまんでは酒をあおり、言ってみれば宴会めいた雰囲気になる。幼い子供たちは庭で遊んだりと随分大らかで、棺のある一つの部屋を除いてみれば、まるで節句や正月といった賑やかな会合といった風だ。

私や母、あるいは他の女性陣は、こういった宴会がスムーズであるよう――ひいては、亡くなった彼を心底悼む方々が存分に泣けるように――料理を作ったり、お酒を運んだり、食器を洗ったりと、家事全般をお手伝いしていた。とはいえ、私などは本当にただの"手伝い"で、包丁を握ってウン十年の母や叔母の足手まといにならぬよう、必死に食器を洗っていただけなのだけれど。

まぁそれでもさすがに疲れて、ちょいと外の空気でも吸おうと廊下を歩いていると――襖が僅かに開いた部屋があることに気づいた。おそらくここに住む誰かの私室だと思い、閉めておこうと襖に手をかけると、中に子供と女性がいることに気づいた。小学校高学年ぐらいの男の子が、ちゃぶ台の上でノートを広げて、何か書き物をしている。それをじっと見つめる女性はきっと母親だろう――と思った瞬間、母親らしき女性と目が合った。

「こんにちは」――互いに頭を下げる。

会ったことのない女性だったが、葬儀に子連れで来ているということは、きっとここの親戚なのだろう。私はそんなこともわからないくらい、この家絡みの親戚から遠ざかっていたのだけれど、当然あちらも私を知らないだろう。薄情ではあるけれど、親戚だからといって必要以上に話し込みたくない私は、それなりの挨拶をしてその場を去ろうと思っていた――のだけれど、残念ながらそうはいかなかった。

「このコ、来週受験なんですよ」

彼女は亡くなった男性の次男の嫁とやらで、つまるところ目の前にいる男の子は孫にあたる。私などよりずっと近い関係にある彼女と男の子が、部屋に閉じこもっているなんて、と疑問に思った瞬間、彼女が口火を切った。

「はぁ。受験ですか」
「中学受験なんですけど…」
「はぁ。追い込みですね」
こうして書いてみると、いかに自分が気のない返事をしていたかしみじみと実感するのだけれど、この受験という言葉を耳にした瞬間、ヘナヘナと力が抜けてしまったのだ。

「まさか、お爺ちゃんがこの時期に亡くなるなんて、ねぇ」
「ご愁傷様です」
微笑む彼女をなんだか直視できず――上目遣いで、それでいてこってりと黒いアイラインの引かれた目元に皺が何本も寄っていたからとか、口紅の色がショッキングピンクだったからとか、毛穴が見えなかったからとか、ぶっちゃけそりゃ厚化粧だろと言いたくても言えなかったからとか、そういうわけではなくて――なんじゃそりゃ、と開いた口が塞がらない思いだったのだ。

なんじゃそりゃ。

**********

その数日後に東京に戻って、たまった洗濯物を片づけたり掃除をしたりと家事に勤しんでいたのだけれど、ある日の午後に携帯が鳴った。昔の上司からだった。かれこれ、もう二、三年近く連絡をとっていないし――そもそも、申し訳ないのだけれどこれから無縁でありたいと願っていた人だった。苦手だったし、考え方や仕事に対する姿勢には全く共感できなかったし、加齢臭がひどかったし――つまるところ嫌いだった。

中途採用で私(とその同僚たち)の目の前に現れた"上司"だったのだけれど、確か一年ほど前に経歴詐称がバレてクビになった、と昔の同僚に聞いていた。やっぱりそうだったのね、と思い返せば納得できるエピソードはたくさんあったし、そもそもそんな彼を雇ってしまった会社もどうなのよ、なんて同僚の冗談めかした愚痴を聞いたこともあるけれど(その頃とうに私は退職していた)、今となっては笑い話で、すっかり思い出の一つとなっていた人なのだけれど。

一体どういうわけか突然電話があってビックリした。もちろん最初からこの人からだと判別できれば出なかったのだけれど、彼の番号などとうに消してしまったのでわかるはずもない。後悔しながら、「どうしたんですか?」と聞いてみた。

「そういえばさぁ、ちゅう太ちゃんさぁ、パチンコ屋に嫁いだんでしょ?」
「そうですけど」
「今度打ちに行くから、お店の名前教えてよ」
「……」
「ちなみに出る台とか知ってるの?」
「……」
「マージンあげるからさ」
「通報するぞ、テメー」

電話を切って、着信拒否した。

***************

それから愛鳥の検診に行くと、あまり結果が思わしくなく――かといって重い病にかかっているとか、持病の膵炎が悪化したとか、そういうわけではないのだけれど――先に亡くなった愛鳥のことを思い出してしまって、ひどく落ち込んでしまった。なんでもほんの少し体調を崩しているとかで、今すぐにどうにかなってしまうような可能性なんて殆どないことは先生も言っていたし、自分でもアタマの中で理解しているのだけれど、どうしても不安になってしまう。愛鳥の身体から命がどんどん流れ出ていくというのに、何も出来ず見ているしかなかった、やるせない日々の記憶が鮮明になってしまって――ダメだった。

憂鬱なことが続いたといっても、具体的には愛鳥のことしかなくて、それ以外は愚痴ってヤツである。まぁ、その……そういうわけで、これからもよろしくお願いします、皆さん。愛鳥は未だにちょっと具合が悪そうなので、更新が遅くなることウケアイですが――読んで下さる方がいると信じて。

よろしくお願いします。

コメントのお返事、今しばらくお待ちください。

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コメント

こんばんは。
今日の記事は何かちょっぴり寂しいですね・・。
鳥さんもまた体調崩されてしまったんですか・・・。
やはりクズのような上司の話も面白かったですが、こちらのほうが気になっちゃいますね(汗)
私には頑張ってくださいとしかいえませんが、少なくとも私のコメントに対するお返事でしたら気にしていただかなくて大丈夫ですよ^^
では、ちゅう太さんもお体をお大事にしてください。

投稿: セイジョージ | 2007年2月 4日 (日) 22時21分

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